このテーマ【沖縄そばと本】では、私が出会った沖縄そばに関する本を紹介していきたいと思います。
これを読んでくれて、こんな情報もあるよ!とアドバイスをいただけたら、凄く嬉しいです。
マニアックな企画ですが、沖縄そばの世界を読者の皆さんと一緒に探訪できたら嬉しいです。お付き合いください。
【沖縄そばと本】、3回目は、向田邦子著、『女の人差し指』、文春文庫です。
向田邦子さんは、テレビドラマ脚本家、小説家で、エッセイストとしても有名です。
向田さんは、この本の中で、『沖縄胃袋旅行』というエッセイを残しており、その中で沖縄そばと『さくら屋』が取り上げられているんです。
『沖縄胃袋旅行』は、昭和56年、「旅」7月号に掲載され、沖縄の食を中心とした旅について書かれています。
取り上げた食べ物は、琉球王朝時代からの宮廷料理から、そーめんちゃんぷるー、てびちなど庶民料理まで幅広く。
食をはじめとして、沖縄の文化や風俗を細かく観察されていて、読んでいて面白いだけでなく、当時の沖縄を知る上でもすごくためになります。
短いエッセイですが、いくつかの沖縄料理の中で、那覇市首里にあった『さくら屋』を訪問した箇所があります。
『さくら屋』は、那覇市首里当蔵町で、昭和26年から平成5年まで営業されていた沖縄そば屋です。
戦後、木灰汁が手に入りにくくなり、老舗の沖縄そば屋が閉店していく中で、昔ながらの沖縄そばづくりや味を最後まで残していた店として有名。
その存在は、今では「伝説の」と言っていいと思います。
多くのメディアで取り上げられ、現在でも多くの沖縄そば屋に影響を与えています。
私の父も、「あそこの沖縄そばは、昔ながらの味だった」と語っていました。
向田さんは、本の中で「珍しく手打ち」と触れられており、当時すでに手打ちの沖縄そばは少なかったことが分かります。
また、麺は「薄い黄色のしこしことした歯ざわりがいい」とも書かれていて、どんな沖縄そばの麺だったんだろうと、想像が膨らみます。
おそらく、コーレーグースーと思われるものを、かけて食べるくだりも興味深い。
伝説の沖縄そば屋『さくや屋』の味を、今の私たちは知る事ができませんが、こうして本を通じて味を想像することは、すごく面白い。
しかも、向田さんのエッセイにこうした形で記されていた事は、幸せな事だと思います。
繰り返し読みながら、私は、『さくら屋』の麺や、スープを想像し楽しんでいます。
今ある沖縄そば屋を追いかける、ガイドブック的な役割が本にはありますが、過去にあった沖縄そばを記録し、後世に残すのも役割の一つ。
過去の沖縄そばを追いかけるのも、沖縄そばと本の楽しみ方の一つかなと思います。
ちなみに、現在、『さくや屋』の沖縄そばを継承していると言われているのが、『首里そば』です。
〈『首里そば』当ブログの過去記事です。〉
〈参考 さくら屋の跡地を訪問された方の記事〉